[意見・小論のページ]
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最近、東京外大のルーマニア語講義で直野先生の小論を目にする機会がありました。なかなか興味ある内容ですのでその一部を紹介したいと思います。内容は一部要約しています。 |
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(ルーマニア語における)再ロマンス語化の過程における混乱 「ルーマニア語のすすめ」(直野敦) (「月刊言語」(大修館書店)1988年9月号掲載) ルーマニア語は、18世紀以降、再ロマンス語化が進行しましたが、それはラテン語、フランス語、イタリア語などからの直接的な借用や、あるいはギリシャ語やロシア語などを通じての間接的な借用が大量に進みました。 間接的な借用には地方的な差異がありました。ギリシャ語やロシア語を通じてのロマンス語からの借用はルーマニア公国(ワラキア)やモルドバ公国には当てはまりますが、トランシルバニア地方には当てはまりません。トランシルバニア地方では、ラテン語(部分的にフランス語、イタリア語)からの直接の借用以外に、ドイツ語やハンガリー語に借用されたラテン語やフランス語の語彙がさらにルーマニア語に借用されるという形でロマンス語化が進みました。 こうして、同一起源の単語のバリアントが2つまたは3つ存在することになり、標準語形成の上で大きな妨げになりました。 モルドバとワラキアは1859年に、その後ルーマニア王国とトランシルバニアは1918年に統一されますが、こういった語彙のバリアントに対して規範となる形が定まってくるのは、第1次大戦後の時期であり、最終的には第2次大戦後の事になります。その例を表1にいくつか挙げて見ましょうさらに、表2には、バリアントのそれぞれが意味の分化によって独立した2つの語となったものを挙げておきます。 表1
表2 意味の分化により異なる独立の単語となったもの
表1から、ラテン語の語尾-tio,-tione,;-sio,sioneに由来する語尾を持つ名詞にバリアントが多い事が分かると思います。トランシルバニアでは、ラテン語の形により近い-ţiune;siuneが導入され、その他の地域ではロシア語からの間接的借用形に由来する-ţie;-sieの形が導入されました。両者の競合関係は現在も最終的には決着のついてないものもありますが、大勢は-ţie語尾のバリアントに有利のようです。 -aj語尾の語彙はフランス語、-agui語尾の語彙はイタリア語に由来するもので、これもフランス語系の-aj語尾の方が優勢ですが、それでもomagiu(敬意、献呈)、ravagiu(損害、破壊)のようにイタリア語側が健闘(?)している例もあります。 specularisiやregularisiはギリシャ語起源の語彙で、それが後にフランス語からの直接の借用語によって置き換えられた例です。 ロマンス諸語からの借用が、異なるルートでなされたために生じた約2世紀に及ぶバリアントの存在は、最終的に20世紀の半ばまでには解消し、標準語における語彙の基準が定まってきたのです。 |
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